「ありがとう」が天職
起業家で最も理想的な形は「これが自分の天職だ!」と言える仕事を見出したときである。さらにその仕事が自分のやりたいことであり、かつ仕事をすることでお客様のためになる、社会のためになる、と我欲・公欲が満足するものがベストだが、現実はそうたやすいことではない。
いくら売上が伸びても、お客様から「ありがとう」もなく、「あちらの店の方が安い」と言われてはやりがいも生きがいもない。人生は1度きり。どうせやるなら、やりがい、生きがいがある仕事をした方がいいに決まっている。
エジソンではないが、失敗は成功の母である。プラス思考でいけば、失敗した仕事というのは自分に向いていなかった仕事の確認である。「おおよかった、また1つ向いていない仕事が見つかった」と喜べばいいが、そう簡単にはできない。気分が大変落ち込んでしまうし、再起不能に陥ってしまう人もいる。ただし、失敗は普通に起こるものであり、今成功している経営者も、いつ目の前に失敗という落とし穴があるか分からない。それが人生だ。人生の夢を追いかけていれば、失敗なしの疾走なんて考えられない。夢を持っている人は、おそらく3%程度だろう。たいがいは時代や周囲に流されて生きている。小さな失敗、大きな失敗の積み重ねの中で人生を歩んで行く。
そうして、平均して40歳過ぎて「本当にやりたいこと」「やらねばならないこと」が見えてくる。
「私にはこれしかない!」
「私はこれでしか役に立てない!」
〇博多一風堂 河原社長
ラーメン選手権の番組で彼は天職を自覚する。前人未到の3連覇を達成し殿堂入りを果たしたのだが、その収録で地元の人たちが涙を流して喜んでくれたのだ。その姿を見たとき、彼には「ありがとう」の言葉しか出てこなかった。そのとき、「『ありがとう』が俺の天職なんだと気づいた」という。
うまいラーメンを出すのは当たり前。焦点はそんな当たり前のところにあるのではなく、少しでも社会貢献しようという思考。うちでできることと言えば、気分が落ち込んで来店してくれたお客様さえ元気にする、「ありがとう」と言って笑顔で帰ってくれるようなお店にする、それしかない。それこそが天職なんだと気付き、徹底的な接客サービスをすることとなった。いい接客サービスをされたら、お客様は気分がよくなる。うまいラーメンがもっとうまい。気分が晴れやかになって店を出る。レジで思わず「ありがとう」と言ってしまうような接客サービス。
天職を知れば、おのずとそれを実現する戦術が決まってくる。
(参考文献:弱者の戦略)